← Mits Reports 一覧に戻る
SESSION 3-4 副資料 / 続編

解決したのは1件だけでした
— でも業務は1日も止まらなかった話

2026-07-14『AIツール本体の見えない障害モード3つ』のその後、14日間の実運用レポート。
発行: 2026-07-28 / 対象: BE-02 AIエージェント経営 2ヶ月グルコン メンバー
関連: 2026-07-14 AIツール本体の見えない障害モード3つ の続編/実運用検証編

結論先頭

2週間経って、Anthropicが公式に直したのは6件中1件でした。
それでも、業務は1日も止まっていません。

前号(2026-07-14)で、AI本体で起きる見えない障害モード3つと、それを外側で受け止めるための受け皿3つ(バックアップ/安全装置の実機確認/使用量の定点観測)の話をしました。「AIを直すんじゃない、外側に受け皿を作るんです」で締めた回です。

あの副資料に載せた GitHub Issue 6件を、2週間後の今日、もう一度全部見直しました。OPENのままが5件、CLOSEDに変わったのは1件。つまり、公式修正待ちの姿勢だった1人型起業家は、この2週間、ほぼ何も守られていなかったわけです。

一方で、受け皿を先に作ってあった側は、事故が起きても「あ、受け皿が仕事したな」で終わっている。この対比を、実物のログで見せます。

Anthropic側の2週間の進捗表

前号で引いた GitHub Issue 6件、それぞれの状態を 2026-07-28 時点で全部見直しました。

Issue番号 状態(2026-07-28 時点) 中身(要旨)
#62041 CLOSED(2026-07-16) 起動時のお掃除処理でセッション書き起こしが2,300件一度に消える件。唯一、この2週間で直った案件。
#77268 OPEN 作業用の隔離フォルダ(worktree)が、他の生きているセッションのworktreeを含めて5回破壊された件。ロック済みも未コミットも巻き添え。
#75275 OPEN Windowsのお掃除処理がNTFSのフォルダ参照(junction)を辿って、隔離フォルダの外側の約800GBまで消してしまう件。
#77212 OPEN 「実行前に必ず聞く」と設定した安全装置(hook)が、権限バイパスモードの下では黙って承認されてしまう件。「拒否」を返すhookは正しく動く。
#72960 OPEN AI本体が dangerouslyDisableSandbox: true(隔離環境を無効化する設定)を有効にしても、ユーザー側には何の表示も出ない件。
#76147 OPEN 会話全体の使用率にまだ余裕がある段階で、文脈圧縮が数分内に何度も連続で走ってしまう件。圧縮のたびに課金される。
※ 状態は 2026-07-28 に gh issue view --json state,closedAt で直接照会した結果。CLOSED は #62041 の1件のみで、他5件は OPEN のまま更新日付だけが動いている状態です。「議論はしている、まだ直っていない」。

受け皿①:バックアップの物語(自動で回っていた話)

RECEIVER 01

AIツール本体が全ログを消しても、外側に本体があるから、業務が止まらない

前号で書いた1つ目の受け皿は「業務データをAIツール本体の中に置きっぱなしにしない」でした。外側(Google Drive/GitHub/Notion)に必ず本体を置いておく。

これ、頭では「そりゃそうだよね」って話なんですよ。じゃあ、実際にやってあるかどうか。ここが分かれ道です。

実際に回っていた記録(過去14日間)
▪ auto-backup コミット(2026-07-14 〜 2026-07-28)
自動バックアップの仕組みが 1時間ごと に走って、Google Drive上の全ワークスペースをローカルgitに固定していました。
過去14日間で計49回、記録されています。 確認方法: git log --since="2026-07-14" --grep="auto-backup" --oneline | wc -l
▪ 3層構成(Notionの原文の器/Obsidianの意味の器/ローカルの耐障害の器)
前々号(2026-07-11)で提示した3層の消えない容器。この構成自体、AIツール本体(Claude Code)が全部消えても業務側の一次資料は1つも失われないように組んであります。
だからこの14日間、6件のうち5件がOPENのままでも、こちらは「守られている」状態が変わらなかった。 前々号: 2026-07-11 AI社員の6つのAI癖と、それを防ぐ3層の消えない容器
なぜ「作ってあってよかった」になるのか

受け皿を作る作業って、作った瞬間には何の見返りもないんですよ。1時間ごとに勝手にバックアップ走らせても、その日何も起きなければ「無駄骨」に見える。

ただ、これは保険と同じ構造なんです。無駄骨に見える期間は、実は「事故が起きていない期間」であって、これがまさに投資が回っている状態です。逆に「1回も発動しなかったから保険はいらなかった」と解約する人は、次に事故が起きたときに全損する。

この2週間、うちはAnthropic側で誰がどんなバグを踏んでいても、業務側は影響ゼロで通しました。それは「作ってあったから」であって、「運が良かったから」じゃない。

✅ 受け皿①のこの2週間の結論

Google Drive/GitHub/Notion のどれか1つでもいい。AIツール本体の外側に、業務データの一次コピーを置いてある状態を今日中に作ってください。「作った」で終わらせず、「1時間おきに動く」を仕込んで、動いた回数を月末に数える。数えた数字が受け皿の証拠です。

受け皿②:実機テストの物語(発火するかどうか、実際に試したか)

RECEIVER 02

「設定した」と「発火した」は違う。この2週間で、そこを分けた人だけが守られていた

前号で書いた2つ目の受け皿は「安全装置(hook)を設定したら、必ず実機テストする」でした。わざと危険操作を試して、止まるか確認する。

ここ、多くの1人型起業家がやらないまま終わっている領域なんですよ。「設定は書いた、書いたから安心」で終わってしまう。書くのは頭の仕事、発火確認は手の仕事。ここが分離してるから、忘れる。

Anthropic側で今も直っていない話(issue #77212)
▪ 権限バイパスモード下で hook 「ask」が黙って承認される件(2026-07-28 現在 OPEN)
「実行前に必ず確認する」と設定した hook が、権限バイパスモードでは呼ばれずに黙ってYESと同じ結果になる。
「拒否」を返すhookは正しく動く。つまり、危険な削除・書き込みの前に止めるはずの装置が、条件次第で無音でスルーされる状態。2週間前と全く同じ状態のままです。 出典: GitHub Issues - claude-code #77212(最終更新 2026-07-13、以降静止)
こちらでやっている実機テスト運用
▪ hook を書いたら「わざと発火させる」が同日中の宿題
こちらの運用では、hook を1本書いたらその日中に「本当に発火するか」の実テストを1本セットにしています。テストで発火しない hook は「書いてない」と同じ扱い。
たとえば「危険な削除の前に確認する hook」を書いたら、危険じゃないテスト用のダミー削除コマンドを実際に流して、hook が止めに来るかを目で見て確認する。
▪ 権限モードは「必要な瞬間だけ」にする
バイパスモードは危険が承知でスピードを取りたい時だけ。それ以外は元に戻す。「常時バイパス」を癖にしない。
これで #77212 のバグに引っかかる時間帯を、業務全体の中で意図的に短くしています。
なぜ「設定した」だけでは足りないのか

hook は「AIを止めるための装置」です。装置が正しく動くかどうかは、装置を書いた瞬間には確認できません。動かして初めてわかる。

これ、車のブレーキと同じなんですよ。買った直後にちゃんと停まるか一度踏んで確認する人はいる。買ってから何ヶ月も踏まないで、いざ交差点で踏んで停まらなかった、が最悪の事故です。

この2週間で #77212 のバグを踏んで大事故になった人がいるとしたら、それは「hookを書いた瞬間に安心してしまい、実機で発火確認をしなかった人」です。装置は書けば動く、じゃないんですよ。動かして初めて動くとわかる。

✅ 受け皿②のこの2週間の結論

hook を書いたら、その日中に「わざと発火させるテスト」を1本セットで回す。発火しない hook は書いてないのと同じ扱い。バイパスモードは常用しない。この3つが揃っていれば、Anthropic側の #77212 バグが直る前でも、業務は止まりません。

受け皿③:定点観測の物語(週に1回、ダッシュボードを見たか)

RECEIVER 03

「翌月の請求書で気づく」を「翌週のダッシュボードで気づく」にずらしただけ

前号で書いた3つ目の受け皿は「週1回、AIサービスの使用量ダッシュボードを見る癖」でした。月次予算の上限アラートも合わせて仕込む。

これ、地味なんですよ。派手さゼロ。でも、この2週間で一番効いた受け皿がこれでした。理由を書きます。

Anthropic側で今も直っていない話(issue #76147)
▪ 短時間に文脈圧縮が連続発火する件(2026-07-28 現在 OPEN)
本来は会話全体の使用率が高くなってから走る処理が、まだ余裕がある段階で数分内に何度も走る。圧縮のたびに課金される。
最終更新は 2026-07-09。2週間前より前から議論はされているが、直っていない状態。使っている最中は「ちょっと遅いな」以外の症状がないのが厄介。 出典: GitHub Issues - claude-code #76147
こちらでやっている定点観測の運用
▪ 使用量サマリの週1定点
こちらは使用量のサマリを軽く見るコマンドを、週1回、決まった曜日に1回回しています。異常な突出があればその日に何があったかを振り返る。
「翌月の請求書で初めて気づく」を「翌週のサマリで気づく」に前倒しするだけの話です。3〜4分の作業。
▪ 「同じ話題を長時間引きずらない」の運用ルール
用件が変わったら新しいセッションを開く。圧縮が走る回数自体を物理的に減らす。
これは #76147 バグへの直接対策ではないんですが、副次的に「異常発火に遭遇する確率」を下げます。
なぜ「派手じゃない受け皿」が一番効いたのか

①のバックアップは、事故が起きた時に「業務が止まらない」を守る受け皿。
②の実機テストは、事故が起きる前に「装置が仕事してる」を確認する受け皿。
③の定点観測は、事故が起きている最中に「まだ小さいうちに気づく」ための受け皿です。

気づくのが月末になると、事故は1ヶ月分に育っています。気づくのが週次になると、事故は1週間分で頭打ち。同じバグを踏んでも、被害の大きさが1/4になる。

大事なのは「見た結果を分析する」じゃなくて「見る癖そのもの」です。分析は異常があった時だけでいい。異常がない週は3〜4分で終わる。癖にしてしまえば負担にならない。

✅ 受け皿③のこの2週間の結論

週1回、決まった曜日に、AIサービスの使用量ダッシュボードを開く。予算アラートを月次予算の80%到達で設定する。この2つだけで、#76147のような請求ショック系のバグは「翌週気づく」に前倒しできます。翌月まで気づかない状態を、意図的に潰す。

まとめ — 「作った」の次に、「回した」があります

前号(2026-07-14)で「AIを直すんじゃない。外側に受け皿を作る」の話をして、3つの受け皿を提示しました。

今号は、それから2週間、その受け皿が実際に仕事をした記録です。Anthropicが直したのは6件中1件。それでも業務が止まらなかったのは、受け皿が2週間、ちゃんと回っていたからです。

受け皿は、作ったら価値が出るんじゃないです。
回して初めて価値が出ます。

1時間ごとに動くバックアップ。書いたその日に発火確認をする hook。週1で開く使用量ダッシュボード。どれも派手さゼロです。派手じゃないから、後回しにされる。後回しにされると、事故が起きたときに何もない状態から慌てることになる。

この副資料を読んだあなたにお願いしたいのは、大きな仕組みを組むことじゃないんですよ。「今日1つ、受け皿を1つ動かす」。これだけです。

  • ①Google Driveに1個フォルダを作って、今書きかけの業務ファイルを1つそこに移す。それだけで「AIツール本体の外に一次コピー」が今日始まる。
  • ②hook を1本書いた記憶があるなら、今日中に1回わざと発火させて、止まるか目で見る。
  • ③使用量ダッシュボードを今週1回開く曜日を、今この場で決める。カレンダーに繰り返し予定を入れる。

この3つを「今日中に1つ、今週中に3つ」で動かせば、次にAnthropic側で何が起きても、あなたの業務側では「あ、受け皿が仕事したな」で終わります。

直すのはAIじゃない、動かすのは受け皿。